委員会
第8回 関西のインフラ強化を進める会 開催日:令和元年.7.31(水) 開催場所:大阪キャッスルホテル 菊・桜・梅・竹
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2. 基調説明「歴史文化を活かす関西
-百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産指定を契機に」講演資料(1.94MB)
井戸 智樹 氏((一社)世界文化遺産地域連携会議 世話役)
はじめに
皆さん、こんにちは。
ここから20分間は文科系のお話をさせていただきます。委員をしております井戸と申します。
33年間、地域連携にかかわっておりまして、歴史街道推進協議会というのを作って、先日、卒業しました。そして今、世界文化遺産地域連携会議で全国の世界遺産のネットワークをお世話しております。百舌鳥・古市古墳群のことだけでしたら大阪や堺の直接のご関係者もいらっしゃるのですが、少し幅広に、関西にとっての歴史文化をどうやって生かすのかということについて、お話をさせていただきたいと思います。
まず一つは世界遺産の現状について、それから登録をうけてどんなことをすべきか、それと、最終的にはインフラ整備にせよ、何にせよ、私は関西を日本の文化首都するためにインフラ整備をする!と言い切れないと、いまいち説得力がないと、はっきり言って思います。そのために関西を南北3つに分けた地域連携をはかる必要があるというお話しをさせていただきます。
もう少しご紹介させていただきますと、歴史街道推進協議会で関西を取り扱っておりました。私が主に取り扱っておりましたのが京阪神を中心としたメインのルート、南北近畿の振興ということで、その延長で世界遺産全国のお世話をしてきたということです。
1 世界文化遺産の現状
世界遺産についてまず現状をお知らせします。19個、文化遺産があります。
北からいきますと、平泉、日光、富岡製糸場、国立西洋美術館、富士山、白川郷。ここまでが東グループです。近畿ですと、京都、奈良、法隆寺、紀伊山地の霊場と参詣道、姫路城、仁徳天皇陵古市古墳群です。中国地方では、広島原爆ドーム、宮島厳島神社、石見銀山がございます。九州を中心としたもんとしては宗像・沖の島、明治日本の産業革命遺産群、潜伏キリシタン、沖縄の城(ぐすく)がございます。自然遺産が4つございまして、合計23個世界遺産がございます。
ところが、非常に残念な現状があります。
まず、訪日外国人の直接消費額は年間4.5兆円と言われています。国別の人数に平均消費額をかけたものです。人気観光地ベスト20のうち、半数が世界文化遺産です。
しかし、このままでは永続的保存が非常にむずかしい現状があります。
たとえば、防災では、奈良・京都に火災がおきたらどうするの?、宮島に津波がきたらどうするのか?、地震がきたら姫路城はくずれてしまうじゃないか?ということがあります。
これは昨年くずれた今帰仁城です。去年の5月頃くずれました。これは軍艦島です。地震・津波が来れば一発でアウトとなります。ただ、この建物自体は世界遺産でありません。明治日本ですから、世界遺産は港や地面より下の坑道の方です。そういう理屈で、くずれたらしょうがないという放置状態にあります。これは京都で防災上の水のカーテンを作ってらっしゃる写真です。
それと、世界遺産の予算はなんと日本遺産の1/9しかありません。1.5億円しかありません。日本遺産は13.5億円です。日本遺産に指定されます業者から20本くらい営業の電話がかかってきます。しかし、世界遺産には営業電話はかかってきません。観光庁の予算は「0」です。法律もなければ支援策もないというのが世界遺産の状況です。
なぜかというと、観光庁は文化庁が世界遺産をやってると思っている。しかし、文化庁の担当者は登録するのが仕事だとしか思っていません。誰も面倒をみない状況です。外国人の人気観光地ベスト20中、世界遺産は半数しめていますが、AKBでいうと、人気のある人を後ろで踊らせているという状況にあるのですね。今回、出国税等もできたことだし、そういったものを使って、もう少しきちんと保存・活用する方法を考えないといけないということです。
それで、藤本さんや上村さんにもご協力いただいて、世界文化遺産連携協議会を8年前に作りました。
当時は世界文化遺産は11個中5個が関西でした。現在は全国19個中、関西は6個です。関西は全国ひっぱっていけるということで、こういう会を作ったというわけです。
やっていることが3つあります。
1つは世界遺産全体、あるいは各地ごとの問題を解消しようということです。特別法を作って世界遺産にきちんとした位置づけすること、陳情して現状を理解いただくということです。
それからこれは紀伊山地に台風が来たときに台風復活宣言をしたということです。
地域ごとにプロジェクトチームを立てています。
紀伊山地の例ですが、これは高野山と吉野と熊野の一番偉いご関係者が東京でシンポジウムをしているところです。
ここは何が弱点かというと、県が3つ、市町村は25個に加え、鉄道も4路線に分かれています。近鉄は吉野のことを言い、南海は高野山のことを言い、JR西日本は白浜のことを言っています。
ここは仏教と神道と修験道の聖地が共存していて、道でむずばれていて、今も活動していることがコンセプトです。高野山、吉野等バラバラに情報発信していても、いつまでたってもこのコンセプトが理解されないので、こういう偉い方に来ていただいてシンポジウムをして、10言語に訳して、東京オリンピックまでにホームページ化しようとしています。
面白いのですが、この方は私どもがむかし招聘したル・モンドの記者です。この方が高野山のことを本にしてベストセラーになり、急に外国人が日本に来始めました。私はおそるおそる挨拶をしようと名刺交換をすると、以前のことをよく覚えられていて、お互いにびっくりしました。これがなかったら高野山も大変だったかと思います。こういう外国語道標も100基くらい、熊野古道等で外国人が迷わないようにと作っています。
いろいろなものがありすぎてわかりにくいので、わかりやすく絞り込もうということで、委員会を作って、3つの聖地、4つの絶景、5つの古道、6つの温泉等、2年ほどかけてコンセプトをまとめたりしています。
その他、近畿では斑鳩のプロジェクト、京都のプロジェクトではアートアクアリウムというイベントを二条城で3回開催しました。3年間で70万人来場。入場料の10%を二条城の保全のために寄付し、合計7000万円ぐらいを寄付できております。
活動分野2つめは、各種共同事業を実現しようということです。
新幹線を使えば世界遺産全部を1週間くらいでまわることができるよというようなことをPRしたり、観光ゴミを持ち帰ろうとか、西日本の世界遺産連携で大阪駅のジャックをしたりもしています。民間では富岡と白川郷で共同の絹石けんを作ったりと、色々なレベルでの共同事業の実現をしようとしています。
今、一番力を入れているのが、2020年をめがけて、世界遺産各地でリレー形式のイベントをしようとしています。1年間のスケジュールがほぼできあがっている状態です。
これは平戸のサイレント・クリスマスです。サイレントなクリスマス。要は教会行事に観光客が参加できるというものです。姫路ではオリンピック・イヤーのカウントダウン・イベントがあります。桜リレーということで、沖縄から平泉まで、数ヶ月かけてリレーを行います。法隆寺では特別展をやります。白川郷では11月にやっている放水行事を6月の暑い時期にやります。
人材・ノウハウを交流するということが3つめの重要ポイントです。
京都でやりました世界遺産サミットです。姫路や和歌山でも開催しています。
2 「百舌鳥・古市古墳群」の登録を受けやるべきこと
そのような活動をしているわけですが、百舌鳥・古市古墳群の登録をうけてやるべきことが3つほどあります。
1つは、訴求ポイント明確にするということがあげられます。百舌鳥・古市古墳群の特徴はいろいろありますが、現時点では、我が国で一番古い時代の世界遺産です。百舌鳥のついでに古市があるように思われがちですが、百舌鳥より古市の方が古いです。ですから、羽曳野、藤井寺はもっとがんばってほしいです。
それから世界巨大古墳中、ベスト3が含まれています。ベスト10のうち6つが含まれています。
周辺を回ったりできます。私も歴史街道で長くおじいちゃん、おばあちゃんを連れて回りましたが、1周まわると忘れません。一生ものです。ですので、「3つ回ると何かがある・・」等とか、何か皆で申し合わせてやればいい。
ということで、1つめは訴求ポイントを明確にしないとダメということです。
2つめは、世界遺産地域の先進事例に学ぶということです。
世界文化遺産だけですでに18個あります。急に観光客が来たり等、いろいろ苦しみながら開拓してきたものですが、それをとりあえずマネするということであります。
たとえば、京都であれば「屋外広告物の一斉撤去」。毛利さんが一生懸命やられたことかと思います。
わが国では
これは五箇山です。なんと村の中は車が一台も走っていません。なぜかというと、この下が駐車場となっています。村民駐車場を地下に設けています
これは日光の例ですが、町内会で住民協定をつくっていまして、例えば「調和した町並み」を作ろうとか「おもてなしのまち」にしようとか「保全すべき資源活用」「賑わいのあるまちづくり」等、住民が考えた例であります。
日光で出来るのであれば関西でもできないはずはないと思います。
マネできるポイントは以外にもたくさんあります。
「パーク&ライド」で一番進んでいるのは石見銀山です。
魅力紹介施設は新しいものほどよくできていて、富士山、軍艦島の民間のデジタルミュージアム、これは小規模ではありますが、韮山反射炉の前の施設です。
移動空間の関しましては、平泉の周遊バス、世界遺産航路としまして原爆ドームや厳島神社があります。
ガイド関係では、有料ガイドで日光とか富岡製糸場の事例があります。
着地型旅行業では、熊野のところが一番進んでいます。年間4億くらい儲けておられる。
ネットで申し込みして、宿泊は民宿のおばちゃんのところです。なので、ここのお仕事は、ネットで受けた申し込みを民宿の方に中継ぎをされているということです。カナダ人を雇用されていて、この方が非常によい情報を発信されています。
たとえば、熊野本宮は水害で流される前、そもそもの姿は女性のあそこの形をしていたんですね。そこに1回入って、出て、よみがえるというようなことです。そういう仕掛けなんですが、それまで解って来ているのは外国人ばかりです。日本人は知らないから、ただ本殿に行ってお参りして帰るだけで、「京都の方がええなぁ」と言いながら帰っていく。
こちらのカナダ人スタッフはすごく貢献されています。
姉妹提携は、「姫路城とノイシュバンシュタイン城」「宮島とモンサンミッシェル」。このように、いろいろ進んだ事例がありますので、これもどんどんマネされたらよいと思います。
3つめのポイントは、南大阪だけの話にしたらもったいないということです。
例えば、実は、私はむかし、箱根駅伝の補欠選手でありました。箱根駅伝というのはコンセプトがすごいんですよ。正月に、都会から海と山を通って、その向こうに富士山がある。そして1月3日に東京に戻るというコースです。
今の大阪マラソンですが、堺も含めて少し考えてはどうかと思います。 例えば、万博予定地→大阪城→熊野古道→大仙公園を通るとか。そうすると2時間半で大阪の魅力がわかるのではないかと思います。今までは府市がバラバラでしたが、これからは是非そうしたことも考えていいただきたい。
もちろんこれはほんの一例です。それぞれのお立場でなんとか百舌鳥・古市を生かすことに頭をひねっていただきたいと思います。
歴史街道の立場から言いますと、もうそろそろメインルートを変えてもいいのでは?と思います。百舌鳥・古市→法隆寺→奈良→京都→姫路で全部世界遺産です。しかも時系列にもなっていますので、今のコースを変える方がいいのではないかと個人的には思っています。
3 関西を日本の文化首都に!-関西を南北3つに分けた連携推進
3番目のお話しです。
関西を日本文化首都に!南北3つに分けた連携推進のお話ですが、以前の職場は日本文化を生かした地域づくりをやって行こうと、事務局の黒谷さんにご協力ご指導いただきながら、近畿50地区、62市町村、それぞれ違うコンセプトでまちづくりに参加して参りました。
こちらがその様子です。
TV番組も3800回つくっています。
海外への情報発信なども、関空に来ている国を全部行こうということで、10年くらいかけてまわった記憶があります。
その間、いろいろな聖域活動とか、スタンプとか、半日コースとかやってきました。
一方では、中央部だけでなく南北近畿の振興をやらなければいけないなということで10年ぐらいがんばってきました。
なぜかというと、関西、関西と言うだけでは、どうしても大阪の話になっていきがちなんですね。すると、京都や地方部は知らん顔するんですよ。”関西ではなく大阪の話やん”と言われます。
結局、関西という大ぐくりの話だけでは、特に南北近畿が置いてけぼりになってしまう。 南北は県が複数にまたがっております。しかも、一緒に推進したら効率がよいこと、一緒にやらなければできないテーマが多いということで、私は南北3つに分けて、それぞれターゲットも違うということで、南部であればコアな精神文化やハイキングのファンを全国、世界から呼べばいいし、北部であれば京阪神の家族連れ中心に行ってもらえばよいと思います。
それで、南北に関して各10項目くらいの事業を行ってまいりました。
私は関西のことをわかりやすく紹介し、なおかつ、地元の方が能力・やる気を発揮できるようにするためには、関西を南北3つに割って考えていくしかないだろうと考えています。
北部に関して申し上げますと、環状の高速道路ができました。
観光的には横綱はいませんが、越前ガニがあったり、但馬牛があったり、篠山のまめとか、その他諸々あるわけですから、そうした食文化にも着目して、この高速道路が繋がったことをなんとか全体の連携に生かしていきたいと思っております。
地元の方によく話すのですが、みんな京阪神のお客を取るライバル同士であり、但馬と丹波が一緒に何かをするという発想がなかったんです。
例えば、私が言うのは、SMAPでいうとキムタクはキムタクで頑張る、中居くんは中居くんで頑張るので良いではないか、でも、SMAPでやったほうが得する時はSMAPでやらないと、例えば東京の人に来てもらうとか、外国の人に来てもらうという話しにはならないよ、ということなんです。
これは、各地に1000枚くらい貼っている地図なのですが、QRコードでピッとしていただくと10言語で各地の説明ができるようになっているものです。
こういうものを使って、携帯の広告をしたり等、いろいろなことをやりました。
携帯の広告は予算50万円くらいで試しにやりました。中京圏でやって、表示回数は220万くらいになりました。それなりのものになったかと思います。
ただ、なかなか高速道路に来ていただくことについては、誰がやるのと言う話になってしまって、どうしても作る側は作ったら終わりという感じで、地元は地元で、やってくれてありがとう・・という感じになったりと。やっぱり一緒にやって得するところは、できるだけ皆で一緒にやるべきだと思っております。
これも黒谷さんとやった分ですが、地域ごとに10年くらいかけて整備計画を作っておりまして、高速道路によって、こうしたものが線のかたちになっていくということです。
ということで、「関西を日本の文化首都にする」という1つの旗を掲げて、しかも、そのための技術としては南北3つに分けて考えていかれるのが良いのではないかというのが私のご提案であります。
関空ができております。
仁徳陵が今度、世界遺産になりました。
京都に文化庁がきます。
関西に万博、IRがきます。
そして、リニアということですので、この機会を生かさない方はないと思います。
文科系的結論としては、そのための旗印が「関西を日本の文化首都に!」ということではないかと。
百舌鳥・古市古墳群の登録を契機に、こうしたことをぜひご一緒に考えていただきたいと思っております。
結論です。
まず1点目は、日本の世界遺産施策は非常にお粗末ですが、この是正が国益に繋がるということです。
2点目は、百舌鳥・古市関係でやるべきことは①訴求内容の明確化、②既存事業に学ぶ、③それぞれの立場で今回の登録を活かしましょうということです。
3点目は、関西として大きく目指すべきものが要るだろうという中で、おそらく「文化首都」をみんなで作ろうではないかということで、機は熟しつつあるだろうということ。
最後に、関西南北3つに分けた連携のイメージ。これが「文化首都づくり」の基本にあるのではないか…というご提案でありました。
どうもありがとうございました。