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第9回 関西のインフラ強化を進める会 開催日:令和元年.12.4(水) 開催場所:OMMグラン101・102
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2. 基調説明・意見交換「次世代交通システムと今後の交通計画」講演資料(1.08MB)
山田 忠史 氏(京都大学経営管理大学院 教授)
はじめに
皆さん、こんばんは。今日は「次世代交通システムと今後の交通計画」と題しましてお話しさせていただきます。また、このような機会を頂戴いたしまして、まことに有難うございます。
情報利用・情報技術のトレンド
まず最初に、世代別の情報利用のグラフを見ていただきたいと思います。
青線は我が国の過去1年間のインターネット利用率を表しています。オレンジが各世代のスマートフォン保有率、グレーはインターネット利用者の中で過去1年間に地図交通情報サービスを利用したことのある率です。黄色はスマートフォン保有者の中で、スマートフォンで公共交通関連の情報を利用したことのある割合です。
世代間で分かれていて、60代以上とそれ以下で、ずいぶん情報への親しみが違っています。これから若い世代が右に移動しますから、全体としては、まちがいなくスマートフォン(スマホ)によるインターネットとの接点が主流になります。現時点では、情報に関して、2つの世代が存在している状況です。
この結果は、自動車のドライバーに限定して、400名を対象に私どもが調べたものです。自動車に乗った時の交通情報の入手方法について、世代別に尋ねたものです。
青がカーナビです。車にセットしているタイプのカーナビです。緑がスマホのアプリです。そして下の3つが、従来型ともいうべき、渋滞案内版やハイウェイラジオ等です。
ここでもかなり違いが出ています。特に20代から30代のスマホ率が高い。カーナビ利用は高めで安定していますが、60代以上のドライバーが比較的高い。そして、全体的に40代~50代が中間的な傾向になっています。
ここでも、「スマホ」と「ネット」が今後の中心になりつつあることが見てとれると思います。
一つのキーワ-ドは「スマホ」です。
ドイツのカーシェアリングの利用登録者数は、かなり伸びています。フリー・フローティングといって、どこで乗って、どこで乗り捨ててもよいというタイプのカーシェリングが非常に伸びています。
最近よく言われていることですが、昔と違って、車を保有することがカッコいいとか、保有することに価値が見いだされるという時代ではなくなってきています。
ちなみに、アメリカでは、Uberなどのライドシェアが優勢です。
他にも、アメリカでは「Lyft」や、東南アジアでは「グラブ」というライドシェアがあります。外国に行った時、現地の企業や政府の方が普通にUberを使っているのを見ると、ライドシェアが、かなり市民権を得ている気がいたします。
特に、カーシェアリングに注目しているのは中国です。自動車による混雑と環境の問題がありますので、カーシェアリングにかなり力を入れようとしています。
自転車のシェアリングについては、中国がかなり多いです。カナダも多い。モントリオールでは通勤や通学に自転車シェアリングが使われています。
二つ目のキーワードは「シェア」です。一つ目と合わせると、「スマホでシェア」。必ずしもスマホというわけではないですが。「スマホ」と「シェア」、これが現在の交通のキーワードです。
なぜ「スマホ」とか「シェア」とかが出てくるのかといいますと、情報技術のトレンドが、どの産業分野においても、「IoT → ビッグデータ → AI」という一連のワンセットにあるからです。
何でもネットに繋いでリアルタイムの情報を吸い上げる、こちらもその情報をいただくというようなものがIoTなので、時々刻々のデータがたまっていきますから、当然ながらデータがビッグになるということで、ビッグデータなのです。ビッグデータは、人間の力では簡単に分析できないサイズです。データを目で見て、エクセルなどのソフトで簡単に分析というわけにはいかないので、もっと賢いものにやってもらおうということで、AIが使われます。このワンセットが、さきほどお話ししましたシェアリングにも利用されています。
このワンセットの利用は、どの分野でもやっています。バックにある技術が違うと組み合わせるのが難しいのですが、いろんな分野で同じような技術(同じワンセット)が背景にあれば、組み合わせるのが簡単です。それゆえ、色々なものがくっついて新しいものが生み出される可能性があります。そしてそれは、想像できないようなものかもしれません。
既に新しいものが創出されています。自動運転もそうです。 このワンセットに、クラウドとブロックチェーンを足しあわせたら「お金(仮想通貨)」ができたのです。お金まで生み出されるかと思うと、これからいったい何が生み出されるのだろうと思ってしまいます。
しかも、こうした流れが加速していくことはまちがいありません。「5G」です。圧倒的にネットが早くなるのです。
それから、最近、量子コンピュータを中心としたコンピュータ技術の発展というものがあります。量子コンピュータは先日話題になっていたかと思いますが、今の普通のコンピュータで10年20年かかってしまうものが、数秒になるとも言われています。このようなコンピュータ技術の発展によって、上述の流れがますます加速しそうなのです。
ビジネスモデルのトレンド MaaS(マース)
当然ながら、この「IoT → ビッグデータ → AI」という流れはビジネスモデルにも大きく影響を及ぼしています。
例えばプラットフォームビジネスというスタイルです。今や当たり前のビジネススタイルになっていますが、Google、Amazon、Uber等、多くのプラットフォームビジネスがあります。
例えばGoogleは、コンテンツ制作者と広告主と閲覧者を「出会わせる」というビジネスです。プラットフォームというのは、駅のプラットフォームと一緒で、出会いの場という意味をもっています。
もうひとつ、もとからあったビジネスモデルなのですが、一層流行っているのが「アズ・ア・サービス・ビジネスモデル」というものです。モノ売りからコト売りへです。言いかえると、製品を売ったり買ったりするのではなく、サービスを売ったり買ったりするというスタイルに変わるということです。
IoTとかビッグデータやAI等がない時代から、コピー機なんかはそうです。コピー機本体はリースで、その後のメンテナンスサービスを買っています。
パソコンにソフトをインストールする時に、昔はフロッピーでした。ちょっと前はCD-Rom、今はダウンロードです。手元にモノはありません。製品には形がなくて、ダウンロードサービスを受けるのです。
衣服についても、最近ネット上で流行っていますが、IoTでビッグデータを取って、AIで分析してマッチングさせて、衣服のシェアリングをやっています。こういうような形態がどんどん出てきています。モノの所有ではなく、サービスを売るというビジネスです。
アズ ア サービスのモビリティ版、つまり、前にモビリティをつければMobility as a Serviceで「MaaS」となります。
「IoT → ビッグデータ → AI」時代の中で、スマホ上のプラットフォームを通じて、鉄道、タクシー、カーシェアリング、ライドシェアリング等の交通サービスを買うのが「MaaS」です。
今でもスマホの交通系アプリでいろいろ調べたりしますが、MaaSとの大きな違いは、簡単に言うと、MaaSでは、経路の探索だけではなくて、予約して決済される、それがスマホ上でストレスなく簡単にできるのです。世界的に「これからはMaaSだ」とか、「Mobility革命」だとか言われるのは、時流が“シェアリング”とか、“自分専用のカスタマイズ”、すなわち、“パーソナル”だからです。スマホというパーソナルなデバイスを持って、自分なりに、ときには、人とシェアしながら移動する。そういう要望が、「IoT → Bigdata → AI」で叶えられる時代なのです。
例えば、スマホのGPS機能によって、リアルタイムで位置情報が獲得できます。自分も見ることができますし、人にも知られてしまうのですが、とにかく、誰がどこにいるかがわかるのでシェアとかマッチングができます。そうすると、その人とその人が一緒に自動車に乗ればライドシェアになります。そういうことが、非常に簡単にできてしまいます。
ただ、MaaSの一番の課題は、結局、クルマの方が便利ではないか?ということです。いろんな交通手段を組み合わせて提供しても、自家用車の方がいろいろな面で便利かもしれません。パーソナルなクルマを上回る選択肢が作れるかどうかが、MaaSの成功の一つの鍵になると言われています。まだそこまでできているMaaSは無い状態です。
これからは人口減少、高齢化、長寿命化が進みます。プライベートな交通手段である自家用車の運転ができない人に対して、あるいは、そのような手段を保有しない方々に対して、自家用車と対抗しうるような交通手段をMaaSが提供できるとなれば、そのような人達に外出意欲を喚起できます。MaaSは、高齢化社会における交通需要の創出においても、役割が大きいということです。
人口減少時代においては、ひとりひとりのアクティビティレベルを高めないといけないですし、社会が活力をもつためには、外出してもらわないといけません。MaaSはそういう機会を与えるとことにもなります。
MaaSには、需要創出や需要誘導が期待されるのです。
MaaSのレベルというのは5段階ありまして、レベル0からレベル4です。
まず、レベル0ですが、レベル0はMaaSではないと言えます。いわゆる、自社アプリです。自社の路線の時刻、ここからここへ行きたいといったら何線で何時で何番線へ乗って…というものです。
レベル1は、公共交通期間を中心として複数を組み合わせるものです。1社だけでなくて、バスとか鉄道等を含めた、いろいろな交通手段を使って移動計画を立てるのに役立ちます。
レベル2は、それに決済がついています。支払いまでできればレベル2です。
レベル3は、月額を払えば乗り放題とか、パッケージ料金になっている等、料金に柔軟性をもたせて、かつ、もちろんいろいろな乗り物に乗れます。
レベル3までは、結局はビジネスに過ぎません。たとえばクルマが渋滞しているエリアなら、それを公共交通機関等にふりわけて少しでも渋滞を緩和するとか、あるいは、万博等でしたら特定の交通手段が特定の時間帯にすごく混雑する可能性がありますから、混雑している交通手段から他の交通手段に転換するというように、望ましい交通手段分担を行うこと、つまり、MaaSを都市計画や交通計画上、意味のあるのものにするのがレベル4です。
レベル4は今のところはまだありません。
簡単にMaaSの例を紹介します。
GoLAはロサンゼルスの例です。タクシー、空港バス、ライドシェアのLyft、カーシェアリングのZipcar、その他に自分の車とか自分のバイクとか自分の自転車も選択肢に入ってます。料金が一番安い経路とか、環境負荷が一番小さい経路とかを選択することができます。全部が全部支払いが可能なわけではないですが、決済もできます。
オーストラリアのTripGOは、世界500都市で展開しています。
今、日本はMaaSをどうするかについて、いろいろな都市で検討中です。こういう例を見ていると、放っておいても「黒船」がやって来るのではないかと思ってます。それならば、黒船が来る前に我々でなんとかしないとと思えます。
日本で実験的に行われているのが、皆さんご存知のmy routeで、トヨタさんが中心となって福岡で実施されています。自転車のシェアとかタクシー、バス、鉄道等で、まだ種類は少ないです。
my routeの面白いところは、お店の情報等、移動の目的の部分にも働きかけようとしているところです。目的があって移動が行われますから、先ほど申し上げた「プライベートな自家用車に対して勝てるかどうか、つまり、ライバルの手段、ターゲットとする手段があって、それに勝てるかどうか」を考える上で、交通の部分だけでサービスレベルをあげるのではなくて、プラスα、例えば、お店の予約が取れるとか、良い席がとれるとか、もちろんディスカウントしてくれるとか、移動先も含めて選択肢にしてしまえば、魅力的な選択肢が作れるかもしれません。交通だけで選択肢を作るのではなく、その先とセットにすることによって、選びたくなくような選択肢が作れるかもしれません。
大阪万博について言えば、会場でなにがしかの特典がついている等、交通と万博会場とでセットで選択肢を作れば、魅力的な選択肢が作れるのではないかと思います。
Whimは元祖「MaaS」で、フィンランドです。行政と一緒になって始めたものです。フィンランドはIT先進国なので、交通もどんどんIT化していきます。そのために、旅客・貨物・鉄道・道路などの輸送に関する法律を一つの枠組みにまとめてしまって、デジタル技術によるプラットフォームをやりますと明文化しています。結構思い切ったことをやるんです。そこには交通手段の優先順位も書いてあります。
自動運転の話もさせていただきたいと思います。
先ほど申し上げましたが、自動運転自体も「IoT → ビッグデータ → AI」という技術を背景にしていますから、MaaSとの親和性が高いです。
自動運転は、今はレベル3だと言われています。レベル4は、限定的な場所での完全自動運転です。レベル5は全ての場所での完全自動運転です。
MaaSと自動運転はセットになっていくと思います。ターゲットが自家用車の場合、自動運転タクシーとか自動運転ライドシェア、自動運転相乗り等ができると、運転手がいないわけですから、運賃がかなり安くなることが予想されます。自家用車を持つよりも安くなるかもしれません。
トヨタさんは今や自社を「モビリティカンパニー」と呼んでいて、そういう時代が来ることを想定して、新しいビジネスモデルを作っていこうということなのだと思います。自動運転が入ってくると、自動車メーカーもこれまでとは違った戦略を立てないといけないということです。
新しい交通システムの課題
ここからは、今後の交通システムのあり方について説明したいと思います。
MaaSも、自動運転も、シーズオリエンテッドと言われるもので、技術先行です。技術を提案する者が思い描くようなものに基づいてできた、ある種の製品・作品です。パソコンのWindowsもそうですし、スマホもそうです。
技術先行の場合、それが社会にとってどうなのか、社会にとってどういう使い方をしたらいいのかを検討する前に、個人がどんどん使っていくことになります。そして、使うのがあたりまえのような「ありき」になってしまうことがあります。つまり、個人の最適化が先に進んでいって、社会がそれに合わせるしかないというような形になるかもしれません。はじめから社会というものをどうやって組み込むか、言い換えると、社会最適というものを組み込んでいかなくてはいけないと思います。
たとえば、完全自動運転が導入されたとします。これまで、都市づくりではコンパクトに街を作って、エネルギーや環境に良く、コストも安くして、コンパクトな街を公共交通のネットワークで支えていこうという「コンパクトシティ」が望まれていたと思います。 しかし、もしも、完全自動運転が卓越してくると、郊外に住む人が増えたり、郊外居住が容易になるとも考えられます。
なぜかと言うと、完全自動運転車というのは、移動時間が今ほど苦にならないからです。食事をしたり、本を読んだり、ゲームをしたり。大事なのはかかる時間ではなく、いつ着くかということです。移動の間は自分の時間を過ごすことができるので、仕事もできますし、メールの処理もできます。そう考えると、「だったら郊外に住んで…」ということもあり得ます。そうなると、コンパクトの逆になってしまいます。
家から自動運転で駅へアクセスして、そこから鉄道で移動するみたいな話がよく出てくるのですが、本当に自然とそうなるのか、私にとってはまゆつばなところがあります。
新しい技術がどんどん入ってくるのであれば、望ましい社会を制約条件にいれて新しい技術を導入しないと、都市や交通をどうしてよいかわからなくなってしまうのではないかと思います。
つまり需要追随で交通計画や都市計画をやっていると、もはや、進歩の速い技術にはついていけません。先に「街はどうあるべき」とか、目標を立てて、それを実現させる範囲でしか新技術を使わないとか、新技術を目標に適合するようにしていくということを考えないといけないと思います。
万博は、新しい社会、未来システムの実験の場でもあると聞いています。最適なMaaSを、望ましい社会、(望ましい社会というとちょっと仰々しいですが)を制約条件に作っていく、言ってしまえば、最適な交通手段分担ですね。特定の手段ができるだけ混まないように分担するという。それができる機会は万博以外にないと思います。ここで実験しないでどこでするの?と思っています。
目標実現型の場合、幹線移動は鉄道を軸として、自動運転エリアというのが鉄道の幹線にぶらさがっているような都市構造を形成する、そのためのいろんなインフラを作っていく、そういうやり方もあります。放っておいてもそういう形にはならないと思います。だから目標を作って、それに向けて進んでいくのです。
今回は触れていないですけど、我が国にETCと自動運転システムがありますが、これらを組み合わせて、かつ、ブロックチェーンや先進コンピュータをそこに入れたら、何かすごいものができそうな気がします。
先述のとおり、情報で分類すると、2つの世代、旧世代と新世代があります。
世代間でシステムが違うと、社会コストがメチャクチャかかります。ですので、新世代が使う技術に旧世代もなんとか合わせていくような形にする。そのためには魅力ある選択肢を使って旧世代の人たちもMaaSとか、そういうものにインテグレートされるように需要を誘導する、加えて、さきほど申しました、長寿命化社会において高齢者の方々が外出しやすいような需要を創出するという役割も、MaaSにはあると思います。単なる自家用車のシェアの奪いあいではなく、需要を創出する、あるいは需要を誘導することができるのもMaaSだと思います。
ELSI(エルシー)は遺伝子の分野でよく言われていることです。技術が進みすぎると誰も中身がわからないことがいっぱい出てきますので、それを悪用する人が出てきて、社会が恐ろしいことになるのではないかという話です。こういうことが交通にも出てくる可能性があると思います。
そういう意味では、今後の社会では、倫理・道徳というものがいっそう大事になってきます。それを持っている人が交通計画者にならないと危ない。多くの人が技術の中身がわからないので、そういう倫理感を持った人がその技術をマネジメントしないと危ないということです。
技術が進んでいくと、システム自体がとても複雑になります。かつ、交通ですから多数のステークホルダーがいます。たとえばMaaSをやるとなったら、まずは関係するところがみんなで集まる、その意味でのプラットフォームが必要になります。みんなで考えていかないと良いものが出来上がらないのではないか、良い選択肢が出来上がらないのではないかと思います。
民間だけでMaaSを進めると、単なるビジネスの手段になってしまうかもしれません。行政が進めると民間への配慮が欠けるかもしれません。ですので、中期的に言いますと、都市レベルでしたらタウンマネージャー、交通レベルで言いますとモビリティマネージャーみたいな、両者の接点を持つような、新しいマネージャーが設定・育成されると、新技術が進む社会において有効ではないかと思います。
以上です。ありがとうございました。